田辺聖子を読む 1 「春情 蛸の足」
2005年 06月 05日
田辺聖子さん。おせいどんの食べ物小説です。
どうも私は、他の欲より食欲の方がずっと勝っているらしく、本書のような食べ物小説らしい本を見ると、読む前からワクワクしてきます。
敢えてグルメ小説と言わないのは、「食べ物」が、我々のすぐ身近にある庶民の食べ物だからです。 トゥールダルジャンもマキシムも、なだ万も吉兆も福臨門酒家も出てきません。
蛸の足、きつねうどん、すきやき、お好み焼き、くじら、たこやき、てっちり、味噌 これらをテーマに8篇が収められています。
それぞれのタイトルには”情”が付いています。
ちょっとご紹介してみましょう。
春情蛸の足
慕情きつねうどん
人情すきやき譚
お好み焼き無情
薄情くじら
たこ焼き多情
当世てっちり事情
味噌と同情
如何です? 田辺ファンならずとも食いしん坊なら読みたくなるでしょう?
慕情きつねうどん を少し覗いてみましょうか。
バツイチの浦井は大のきつねうどん好き。毎日毎日お昼は、きつねうどんに決めている。
同じうどん屋にずっと通っているうち、ここ半年ばかり週に二、三べん会う女がいる。
三十代後半くらいで、ほっそりと姿のいい女だ。彼女もいつも、きつねうどんを注文する。
その食べ方が実にいい。・・・まったりした、奥ゆきふかい薄味のおつゆを、どんぶりを傾けて心ゆくまで飲み干す。タベモノを大切にする、うどんに愛執する、というその心持ちが浦井にはじつにめでたく思われ、その姿に目を洗われる気がした。・・・
浦井は、そんな彼女に惚れてしまう。そして、”きつねうどん同好会”を二人で結成した。
交際は続き、二人はめでたく結婚する。 ところがしかし、彼女が豹変するのだ!
とまあ、こういう感じで、タベモノに男女が絡んで話が出来ているんですが、すべて読了してみると、これらはやっぱり人間の話なんだな、という結論になります。田辺聖子さんの、まったりした大阪弁が、たまらなくいいんです。
05.6.3 読了

