河治和香「笹色の紅」

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河治和香「笹色の紅 幕末おんな鍼師恋がたり」
2006.4 小学館・刊 ¥1,785









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冒頭からボタ餅が出てきます♪

「来月、疫病流行るべし、今月晦日までにボタ餅を拵えてこれを食せば厄災逃るるが、もし喰わざれば、その者残らず死すべし」という噂が広まったのは幕末の江戸の街。
おんな鍼師のおしゃあは赤子の頭ほどもあるボタ餅を二つも頬張ったため、夜中に胸がやけてしかたなかった。

14~16才まで女郎をさせられ、背と腰の間のへんな位置に灸のあとのような大きなタコ(女郎タコと言うそうな。E区の聖と言われる雨漏り、そのような不埒はしたことがないので、よくは分からず)ができるほど客を取らされるが、老年の鍼師に落籍され、男女の関係はないまま、鍼師の修行をさせられて、今は「先生」と呼ばれる一人前の鍼師になっている。

このおんな鍼師おしゃあと、瀬戸内塩飽島から幕府の徴用で江戸に引っ張って来られた庄八との、幕末~明治に亘るヤヤコシイ恋物語です。

後に安田財閥を築く安田善次郎が、この物語の初めの頃は、善公と呼ばれ、近所の湯屋の下働きをしていて、喧嘩でボコボコになった庄八をおしゃあの家に治療のために連れて来たことから、二人の交情・交際が始まる。

この善公、助演ですが時々登場しては商人としての成長ぶりを見せてくれます。
またあの有名な成島柳北も、3千石の大身旗本として、崩壊しつつある幕府で重要なお役目を果たすがご一新後は、反体制的な「朝野新聞」を発行して健筆を揮うことになる。
おしゃあとも密接な交流があり、素顔の成島甲子太郎として出演する。本書中ではヘチマと記されるほど顔が長かったらしい。

笹色の紅」というのは口紅の塗り方で、爆発的に流行ったことがあるらしい。
本紅は何度も重ねて塗ると、乾いたとき、玉虫色の光沢を帯びるそうなんです。
でも本紅は高直なので、一般には、墨を下地に塗ってその上に紅を重ねれば同様の効果が得られるらしい。
普段はスッピンで通すおしゃあも勝負時には、この笹色紅で粧うのです。
女郎として数多くの男の相手をして、交わりには何の反応もしなくなったおしゃあは庄八との初めての交わりで「体が泣いた」のです。
庄八からは何度も何度もプロポーズされるが、ずううっと断り続け何十年も恋人のままでいることを望んだのでした。
by amamori120 | 2007-05-06 10:36 | 時代小説を読む