森本哲郎「おくのほそ道行」

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森本哲郎「おくのほそ道行」
1984.4 平凡社・刊 ¥2,300
写真 笹川弘三







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「月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也。・・・」松尾芭蕉「おくのほそ道」の有名な書き出しです。高校の古文で習いましたね。
TVでよく見かける森本毅郎サンの賢兄・哲郎サンの労作です。

「昭和58年5月16日、芭蕉の歩んだ道をできるかぎり忠実にたどって、300年前の芭蕉の旅をしのんでみようと思っ」て、出かけた訳ですね。

チョット見難いかもしれませんが、「おくのほそ道全行程図」をご覧下さい。
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      (クリックで多少大きくなります)

芭蕉は、3.27(新暦5.16)に深川を出発、約半年をかけて9.6(新暦10.18)大垣に辿り着いています。
お供は弟子の河合曾良。詳細な日記をつけていたようです。
芭蕉の「おくのほそ道」は、現実の問題、つまりお金や食べ物の記述がほとんどなく、「こうまで俗事を切り捨てた旅の記というものは、おそらく日本独特のもの」なので、同行した曾良が丹念につけた日記が大きな価値を持つようです。

森本サンによれば
「彼(芭蕉)にとって旅とは詩想を触発するための手段にすぎなかった。芭蕉は現実の世界を見きわめるために旅をしたのではなく、自分の内面を見つめるために、そして詩的なイメージを育てるためにみちのくをさまよったのである。そして、これこそが芭蕉のみならず、日本人にとっての理想的な旅、旅の手本なのだ。」

「日本人の旅とは、けっしてあてどない漂泊の旅ではなく、歌枕を訪ね、社寺を参拝するという文学と宗教とを、すなわち美と信とを求める遊行なのだ。」>

「日本の詩人たちにとっては、実際の景色など、どうでもよかったのではあるまいか。そんな現実の姿よりも、そこにつけられた地名が胸中に呼び起こしてくれる詩的なイメージのほうが大切だったのである。」


<雨漏りメモ> 歌枕:もともとは歌に用いられる言葉、雅言集くらいの意味だったが、歌に詠まれる地名、名所のことになり、詩情を象徴するものや場所の意味になっていった。

ご案内の通り、当時の旅は、現代に比べて実に苦しいものだったようですが、芭蕉もご多分に漏れず度々窮状に見舞われています。
江戸や仙台などで知られていた芭蕉の名も片田舎では通用せず、宿を断られたことも何度もあったようです。
「安易な旅、快適な旅は楽しみ以外の何も残してはくれない。まことに、最悪の旅こそ最良の旅だと」森本サンは思うのです。


それではいくつかの有名な場所をご紹介していきます。

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♪あらたうと青葉若葉の日の光


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♪蚤虱馬の尿する枕もと  飯塚(飯坂)


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♪松島や鶴に身をかれほとヽぎす  (曾良)


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♪五月雨の降りのこしてや光堂  平泉


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♪閑さや岩にしみ入る蝉の声
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句碑のある立石寺・蝉塚



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♪五月雨をあつめて早し最上川



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♪象潟や雨に西施がねぶの花



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♪荒海や佐渡によこたふ天河(あまのがは)



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♪一家(ひとつや)に遊女もねたり萩と月




最後に、また森本サンの言葉を引用します。
「たしかに象潟までの芭蕉の旅は、先人に心を奪われ、ただひたすら何かを求めて歩いたように思われる。だが、その旅の終わりに、彼はついにその何かを得たのである。そしてそれを得ることによって<不易流行>をさとり、<軽み>へと進んだ。」

巷間、「芭蕉は隠密だった」なんてことが言われることがありますが、トンデモナイコトデゴザイマス。
各ページに載ってる原文を読むと、これはまさに芭蕉にとっては求道の旅にほかならないのです。
そして彼は、この旅によって或る高い境地にまで達し、俳聖といわれるようになったのだと思います♪
by amamori120 | 2007-05-05 12:24 | 読後感・本の紹介