澤田ふじ子「大蛇の橋」

澤田ふじ子「大蛇の橋」_d0065324_9244823.jpg澤田ふじ子「大蛇の橋」2001.4 幻冬社・刊  ¥1,600

澤田サンの長編小説です。「大蛇の橋(おろちのはし)」なんて恐ろしげなタイトルですね。






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舞台は勿論、京都そして丹波篠山。

江戸時代の身分制度のシビアさが本編の根底にあります。
士農工商の別は、ご存じの通りですが、「士」の中にあっても上士・中士と下士との間には制度上・意識上の大きな懸隔がありました。そして長い平和が続き、この身分制度は固定化されていて、よほどのことがない限り、上の身分にUPすることはあり得なかったのですね。

主人公の大滝市郎助は、下士でありながら、剣術は藩の剣術師範の代理が勤まるほどの腕。また武士の嗜みの一つとされた能も藩士の中では随一と言われている。さらに、なかなかのアイディアマンで藩の運営に関する献策にも優れたものがあり、城の石垣の調査・保存については幕府にまで聞こえるほどのグッドアイディアを出し、命ぜられて自らその任務に就いています。
要路の心ある人たちには、有能の士と高く評価され可愛がられてもいるのですが、人は様々、上・中士の中には、家柄しか誇れるものがないのに、己の無能さは棚に上げて市郎助のことを「出る杭」だと快く思わない連中も居る訳です。

代替わりがあり、新藩主の初のお国入りに際して、能を捧げようということになり、メインキャストを狙って自薦他薦の藩士たちが色々策動したりするのですが、大方の予想に反して市郎助が選ばれます。
身分の低い自分が上・中士をさしおいて、と常から控えめな市郎助は固辞するのですが許されず、仕方なく主役を受けて稽古に励みます。
そして、藩主の御前での演能が始まります。
演目は道成寺。
鐘の中で般若の面を付けて変身しなきゃいけないのに、開演前に確認した面がないっ。
奴等の仕業だっ。しかし、この際なんとかしなければ。
市郎助は万やむを得ず自分の指を噛み切り、流れる血で隈取りして鬼化した顔を見せたのだった。
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表紙の赤いのは、血なんです。
なんともすさまじいものですね。

傷が癒えた市郎助は首謀者のうち二人を斬って脱藩します。
そして数年が経ち、首謀者の残りの二人は丹波篠山藩京屋敷の要職に転勤してきます。
奈良で雌伏していた市郎助は風の便りでそのことを知り、復讐の仕上げに入るのだった。
彼の剣の腕を以てすれば彼らを斬り殺すのは造作もないことだが、それでは彼の宿怨は晴れない。
死ぬより苦しい思いをさせなければかれの気持ちは収まるものではない。
どんなやり方で市郎助は復讐を遂げるのか?


がんじがらみの身分制度。やりきれないですね。
現代日本にも陰では厳として身分制度が存在すると思っています。
しかし普段は、そんなことを考えずにフツーに暮らしていける。
江戸時代よりは、まぁいい社会だ、くらいに思いましょうか。
by amamori120 | 2007-04-13 09:35 | 澤田ふじ子を読む