おかあさんのうた サトウハチロー
2007年 02月 12日1996.4 講談社・刊
詩・サトウハチロー 写真・前田真三
♪ おかあさんはわたしを生んだの
おかあさんはわたしを生んだの
それから
わたしをそだてたの
それから
わたしをたのしみにしていたの
それから
わたしのために泣いたの
それから
それからあとはいえないの
♪ おふくろがつめてくれた弁当は
おふくろがつめてくれた弁当は
ふたをあけただけですぐわかるんだ
おかずのならべかた
小さい紅しょうがの置きかた
その上を往復したおふくろの指
めしの上にそれがちらつくんだ
♪ そえからそえからとせがむボク
そえから そえからと せがむボク
それから それからと つづける母
ボクが大きくなり
そえから そえからが
この部屋から消え・・・・・
それから それから
母の夜は わびしくなったのです
♪ わたしは時々 足の親指をみる
わたしは時々 足の親指をみる
つくづくとながめる
わたしに足の親指は
そのまま母の足の親指
わたしはそれを
いつまでもみている
ながめてる
♪ ちいさいやどかりを手にのせて
ちいさいやどかりを手にのせて
母は何かを話してた
その砂山に その砂山に
いまわたしはたたずんでいる
すぎし日の母とおなじに
ちいさいやどかりを手にのせて
なにごとかをつぶやきながら・・・・・
♪ かァさんの手紙を読みました
かァさんの手紙を読みました
あて字ばかりの手紙です
「からだを大事になさいね」が
ずらりずらりとならんでいました
返事は出さないことにきめました
又「からだを大事にね」が
ならんでくるからです
♪ 秋風に 母の声がある
秋風に 母の声がある
秋のひざしの中に 母の目がある
秋に雨に 母のつぶやきがある
秋の窓に 母の影がある
わたしは
秋の中に 母の姿を描く
♪ 壁に母がその手で
壁に母がその手で
つくりだす 影絵
影絵の影絵の子狐の
首のかぼそさに
秋の風が ゆれて
ふるえて・・・・・
♪ ひとりぼっちの母は
つぶやきました
ひとりぼっちの母はつぶやきました
灯りを消しましょう
灯りがついていると
ひとりぼっちの 影がうつるから
ひとりぼっちの 影を見ていると
ひとりぼっちが ハッキリわかるから・・・・・
♪ 母の手と指
お米をとぐ音
お餅のやける匂い
おかゆのおねばにうつるやわらかい灯(ともし)び
その音 その匂い
その灯びを想うと
母の手がうかぶのです
母の指まで うかぶのです
そうして
中指の根もとにある
小さく黒く光るほくろまで
うっすりと涙に ぼやけて
にじんで・・・・・
おかあさんのうた まだまだ素敵な詩がいっぱいです。
写真も良いですね♪