ねじめ正一「シーボルトの眼 出島絵師 川原慶賀」

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2004.5 集英社・刊 ¥1,890  05.12.16 読了

1981 処女詩集「ふ」でH氏賞、1989 「高円寺純情商店街」で第101回 直木賞 をそれぞれ受賞した、ねじめ正一さんの作品です。

長崎出島専属の絵師、川原慶賀の物語。
オランダ商館に属し、様々な絵や図を描くのが仕事だが、シーボルトが商館付き医師として赴任して来てからは、色々なイヴェントの絵も描かせられるようになった。今で言えば、殆どカメラマンですね。
「シーボルトの眼」とは、慶賀がシーボルトの眼になること。
シーボルトは言う。
「不足ガアッテハナラナイ。余計ナモノヲ描イテモナラナイ。」
「オ前ハ、私ガ見タモノヲ、私ガ見タママニ描クノダ。」
シーボルトが見たものを、シーボルトが見たままに描く。それは、慶賀がシーボルトの眼になることである。
絵師なら誰でも持っている「こうも描きたい、ああも描ける」という画欲を捨て、対象をありのままに写すことである。
シーボルトの眼は学者の眼であった。情感に溺れることなく、ただひたすらに正確さを求める眼であった。

シーボルトは、来日して程なく、献身的な治療と寝る間も惜しむ啓蒙活動により、名医としての高い評価を得ることになる。そんな彼に慶賀は心服し、シーボルトの眼になりきった。そのため、かの有名な”シーボルト事件”に連座し投獄の憂き目に遭う。

一方、オランダ商館長以下の江戸参府に随行した慶賀は、葛飾北斎と知り合い、その娘で、やはり優れた画家である阿栄(おえい)と共に過ごすようになる。
シーボルトと、その日本人妻おたき、彼らの娘で、後に医師となった、オランダおいね、との交流も詳細に語られる。

本筋から外れますが、甘キンの雨漏りとしては、本文中に出てくる鶏卵素麺に激しく反応しました。これは、卵黄と砂糖を練り合わせて素麺状に押し出した甘いお菓子らしいです。
ねじめサンの表現だと、「こめかみが痛くなるほど甘」くて、「頬っぺたの内側から甘さが脳天へ突き抜ける。」そうです。スウイーツの少ない時代ですから、現代からすれば、いくらかは割り引いて考えなければなりませんが、もしまだこのお菓子が存在するなら一度は見参したいですね。


閑話休題。川原慶賀は実在の人物ですが、史実をよく調べ、独特の想像力を駆使して「高円寺純情商店街」のタッチで、面白い読み物に仕立て上げました。
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Commented by revenouveau at 2005-12-19 12:02
川原慶賀の作品で現存するものは、国内に約100点、あとはライデン
博物館に約1200点といわれていますが、残された作品ほど、慶賀自
身の資料は多くないようですね。おそらく、取材もたいへんだったと
思います。

ところで、気になっておられる、その鶏卵素麺は、現存していますよ。
というか、わたしの好きなお菓子のひとつです。
お話しのとおり、かなり、甘いです。溶いた卵黄を、煮えた水飴のな
かに糸状に流しこんで固めたという表現が、現在のものにちかいので
はないかと。卵は、厳選した地鶏のものを使っているとのことです。
たしか、福岡市博多区にある「松屋」というお店が有名だと思います。
ちなみに、電話は 092-291-5244。お取り寄せができるかどうか…

そういえば、このお菓子のなかにはいっている注意書きに
「このお菓子は形がそうめんに似ていますので、お湯などをかけられ
るお方もあるように聞き及んでおりますが、…」といったような内容
が書かれていました。似ていないこともないんですが、そこまで勘違
いはしないような気もするんですが、どうでしょうか。
Commented by SNOOPYヾ(*^-^*) at 2005-12-19 18:23 x
>鶏卵素麺
で、思い出しましたが…
SNOOPYちゃん、昨日ね【烏骨鶏かすていら】っての頂きましたぁ☆
http://auction.msn.co.jp/pitem/15143815
ほぼっ毎年頂くのですが…
SNOOPYレベルの味覚にはっ勿体無いです(笑)
Commented by nagayades at 2005-12-19 20:03
シーボルトについては、吉村昭 『ふぉん・しいほるとの娘』 を思い出しました。加えて北斎とお栄も登場するんですか!バラエティに富んだ江戸絵巻、面白そうです。
Commented by ninuckey at 2005-12-19 20:18
鶏卵素麺と言えばその昔、なぜか頻繁に九州へ出張していた伯父がお土産に(毎回ひよこ饅頭とコンビでした)、持って来てくれていました。
「寝ている虫歯を起こす」ような甘さでした。
Commented by bowie94 at 2005-12-19 20:24
私も「鶏卵素麺」知ってるー!食べた事あるー!(ちょっと鼻ふんがー)
スウィーツ王の雨漏りさんがご存じないお菓子があったとは!
それ自体にびっくりです。

・・・でも確かにめっちゃめちゃ甘いです。アメリカのお菓子くらい、いやもっと?
砂糖やはちみつそのものより甘いです。
脳天を突き抜ける甘さって表現、言えてるかもです。
私はちょっと苦手です。(ごごごごめんなさい、さえらさん)
Commented by みお at 2005-12-19 21:04 x
こんばんは。私は福岡なので、鶏卵素麺はなじみのお菓子です。最近食べてないですが。強烈な甘みなので、苦手な方も多いみたい。。
私は、しょっちゅう食べたいとは思わないですが、嫌いじゃないです♪
Commented by amamori120 at 2005-12-19 22:33
>さ・え・らサン ご教示ありがとうございます。
松屋さんの注意書きが傑作ですね。
早速当たって見ましょう♪
Commented by jsby at 2005-12-19 22:34
シーボルトのことは、小説・ドラマやドキュメンタリー等で、取り上げられて
いますが、もう一人の影のシーボルト(川原慶賀)のことは、あまり注目されません。「シーボルトが見たものを、シーボルトが見たままに描く」とは、不思議な感覚だったと思います。写実的に描けばいいとうことでもなく、シーボルトと心を一体化しなければ、彼の眼とはなれない。とても大変な仕事を成し遂げられた影の立役者だと思いました。この時代の慶賀の肩書は、出島出入絵師。しかし、シーボルト事件によりその資格も失ってしまった時は、どんなにか無念だったことと思いました。時間ができましたら、是非読んでみたいです。

先ほど遅ればせながら、私の方もページの更新をいたしました。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 22:35
>SNOOPYさん  ウコッケイ・カステラですね。 サイトに行ってみます。 ありがとうございます。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 22:39
>長屋女王さま  本書では、おいねは、まだ赤ん坊のままです。
出島におけるオランダ商館、長崎奉行所の日々がどんなものだったか勉強にもなりました。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 22:43
> ninuckeyさん 「寝ている虫歯を起こす」ような甘さ <ねじめさんも裸足で逃げ出すような表現。参りましたっ。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 22:56
>ヤッホーさん   まだまだ、お菓子も漢字も勉強中の雨漏りです。
先日、神田で買った「和菓子」によれば、福岡市の名物で、初出は寛文年間(1661)、豪商大賀家の長崎支店番頭利右衛門の創作だそうで、黒田家から苗字(松江)帯刀を許され、黒田藩御用菓子司を命ぜられたそうです。 松江→松屋 になる訳ですね。
該品は、南蛮菓子に入るが原産は中国だそうです。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 22:59
>みおさん やはり強烈な甘さなんですね。 本書では、川原慶賀は辛党な上、今ほど甘い物が普及してないと思ったので、それほどではあるまいと考えた私が甘かった??
Commented by haruntoti at 2005-12-19 23:02
鶏卵素麺、どこかで目にしたことが・・・。
食べた事はないので 本か雑誌で見たことがあるのだと思います。
寝ている虫歯を起こし 脳天へつきぬけるほどの甘さとは 一体いかほどなのか・・・。
一口食べてみたくなりますね~。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 23:05
> jsbyさん  川原慶賀は、最初は、腕はいいが、割と要領をカマす、ややいい加減な男として描かれていますが、シーボルトに段々心服して、完全に彼の眼となって行きます。
それと、阿栄とは添い遂げるんですが、この女子が実に破天荒で興味深い個性。二人の交情も楽しく描かれています。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 23:08
>haruntotiさん 私も、ご同様です。 虫歯も脳天の、なんのその、TRYしてみましょう!
Commented by haruntoti at 2005-12-19 23:13
今日を含め いつもいつも書き忘れてしまうのですが、良かったらリンクさせてください。
Commented by amamori120 at 2005-12-19 23:16
>haruntotiさん   agree with pleasure です。
よろしくお願いを申します (^-^)
Commented by ke-kosan at 2005-12-20 12:39
私もその鶏卵素麺食べたことあるような気がします。
随分前のことでよく覚えていないのですが、
みなさんおっしゃってるようにかなり甘いものだったような・・・・・。
Commented by amamori120 at 2005-12-20 23:33
>けーこサン  鶏卵素麺、既食ですか。羨ましいです。
脳天の方は如何でしたか? ムシ歯は?
甘キンとしては、なんとか食してみたいものです。
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by amamori120 | 2005-12-19 00:44 | 時代小説を読む | Trackback | Comments(20)