柳 美里 「石に泳ぐ魚」

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02.10  新潮社・刊  ¥1,365   05.10.6 読了

末尾に新潮社からの断り書きが載っています。
本作品は当初「新潮」1994年9月号に発表されたが、その後作中人物のモデルとなった人物から訴えを受け、訴訟の対象となった。裁判は8年におよび、2002.9.24最高裁判所は新潮社と柳 美里氏に対して出版差し止めと損害賠償を命じた。一方、裁判の過程で柳 美里氏は作品の「改訂版」を提出しており、これについても原告側は出版差し止めを請求したが、東京地方裁判所による第一審にて請求は棄却された。その後「改訂版」について法的に争いはなく、この判決は確定している。本書は裁判所に提出された「改訂版」である。

柳 美里については平成8年に第18回野間文芸新人賞、第24回泉鏡花文学賞を受賞した「フルハウス」、平成9年に第116回芥川賞を受賞した「家族シネマ」、他に「水辺のゆりかご」「男」などをリアルタイムで読了している。その後、柳 美里への興味が失せ、書店で彼女の本が陳列されているのを見ても「ああ、やってるな」と思う程度で手に取ることもなかった。
ところがつい先日、若い友人irs-tkbeea氏から本書を読むよう強く勧められ、本まで用意してくれたので、久しぶりに柳 美里を読んでみた。




主人公の梁 秀香(ヤン・スヒャン 柳 美里 )は、前年ある戯曲賞を受賞したが、彼女に戯曲を書くよう勧めた劇団の演出家・風元と愛人関係にある。彼女の作品が韓国で上演されるという話が持ち上がり、その関係で事態は進むが、カメラマンの辻ともベッドを共にするようになる。そして体の関係はしないが、16匹の犬と暮らす”柿の木の男”の家にも泊まったりしている。
小原ゆきのは韓国人の血が1/4入った劇団員。彼女も一緒に韓国へ行く。そこで、ゆきのの友人、朴 里花(パク・リファ)と知り合う。里花は三世、秀香は二世だ。ソウルでは里花の家に泊めて貰い、韓国らしい”情”の濃いつきあいが始まる。
上演される劇場は釜山にあり、日本から同行した、プロモーターであり翻訳者でもある金 智海と共に飛ぶも、色々と不都合が生じ、結局話がまとまらず、金とも諍いを起こして喧嘩別れをする。どうも韓国人とは感性が合わないらしい。そして虚しく帰国。
暫くして武蔵野美大の大学院を受験するため里花が日本にやって来た。寄宿先は国分寺の伯母の家。付き合いを再開する。ソウルでも国分寺でも魚屋が印象的に描かれる。里花は言う。「自分の顔の中には一匹の魚が棲んでいるって思ってたの・・・小さい頃から ずっと ずっとね」
魚とは? 自分の中の醜いものを象徴しているのか?
この後、里花が武蔵美に合格してしまったり、秀香が妊娠して辻の費用で堕胎したり、演出家の風元が自分のアパートで他の劇団員とベッドに居るところへ秀香が行き合わせたりして物語りは進む。
里花の仲間の恩姫が韓国で”統一教会”と思われる新興宗教の虜になったことを聞いて、連れ戻しにソウルへ行った里花が、ミイラ取りのミイラになってしまう。秀香は韓国へ飛び、苦労して里花に面会することができたが里花は完全に嵌っており別れの時も、「彼女の顔の中に棲む魚が嘲笑うように跳ね上がった。」

「改訂版」のためか、モデルのプライヴァシー侵害にあたるようなところは何も思い当たりませんでした。作品中にもあるのですが、自分の父母のことの方が、よほど「侵害」にあたるのでは?と思えるくらいです。
訴えたのは、多分、朴 里花ではないかと思います。
いずれにせよ、それほど面白いストーリーが展開される訳でもなく、ショッキングな描写がある訳でもないのですが、柳 美里の出発点なんですね。

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by amamori120 | 2005-10-10 01:30 | 読後感・本の紹介