横山秀夫を読む 9 「第三の時効」 

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 03.2 集英社・刊   ¥1,785   05.9.19  読了

9月18日(日) 朝日新聞の書評欄で、横山秀夫「震度0」が採り上げられていました。その中で、この「第三の時効」に言及が何度かなされ、今までの所、「第三の時効」が、この著者の作品中ベストだ、最高傑作だと評価されていました。そして、「警察小説の王者・横山秀夫」とも評されていたのは、ファンとして嬉しい限りです。

本書は、表題作の他に
「沈黙のアリバイ」
「囚人のジレンマ」
「密室の抜け穴」
「ペルソナの微笑」
「モノクロームの反転」 が収められています。
いずれも、ゾクゾクするような、いいタイトルですね。

本書の各篇には、F県警本部捜査一課強行犯係各班が出演します。
命令系統を記しますと、 尾関刑事部長ー田畑捜査一課長ー各班長
                                 1班 朽木班長
                                 2班 楠見班長
                                 3班 村瀬班長

                    
「第三の時効」
武内利晴は幼なじみの本間ゆき絵をレイプし、恰度帰宅した、ゆき絵の夫を殺害し逃亡した。
それから15年が経過しようとしている。時効は目前だ。
レイプされた時に、ゆき絵は妊娠してしまい、武内は、その時の女の子が14才の中学生の娘になったことを知っている。
だから時効が過ぎれば、必ず連絡してくる筈だ。
しかし15年の時効が成立しても連絡はない。
次は、第二の時効だ。武内は事件を起こした直後に台湾へ逃亡していた。海外に居た7日間だけ時効が延びるのだ。
武内はこの規定を知っているのか?
そして7日が過ぎ、第二の時効も成立してしまった。
もう警察が打てる手はない。
ゆき絵の家や他の場所に張り込んだ捜査員達は引き揚げの準備を始める。そこへ捜査の責任者・楠見班長が来て「まだだっ」と止める。
「ホシを起訴した」というのだ。
普通、「時効」といえば、「公訴時効」を指す。つまり裁判を起こせるリミットの期日だ。その期日までに犯人を逮捕して送検・起訴となる訳だが、逮捕という手続きを経なくても犯人が特定されてさえいれば裁判所に起訴できるのだ。起訴から公判までは6日間。「第三の時効」が発生する。「第二の時効」から6日が過ぎれば、今度こそ本当に時効が完成する。
「第二の時効」くらいまでは誰でも知っているが、「第三の時効」のことなど警察関係者でも知る者は少ない。ましてや素人の武内が知っている訳もなく、はたして「第二の時効」が過ぎた翌日、武内から電話がかかって来た。そして・・・想像も出来ぬ結末が待っている!




「沈黙のアリバイ」
強盗殺人犯の片割れが裁判で自白を覆し、無罪を申し立てる。
「落とした」つもりでいた取り調べ担当の刑事は、完全になめられ、罠にはまっていたのだ。このままでは、「冤罪嫌悪派」の裁判長に無罪判決を出されてしまう。朽木班長は真実を見通すことができるのか?

「囚人のジレンマ」とは、共犯者のいる被疑者を落とすために使われるテクニックで「片割れが吐いたぞっ」と言って、当の被疑者に自白させるもの。
F県警本部捜査一課長の田畑はてんてこ舞いをしている。主婦殺し、証券マン焼殺事件、調理師殺し、この三つの事件の捜査指揮のため三つの所轄署を経巡っている。本部から各所轄に乗り込んでいる強行犯捜査係の刑事達は一筋縄ではいかない連中ばかりだ。1班の朽木、2班の楠見、3班の村瀬。彼らは課内で激しく競い合っていて、課長の田畑の言うことなど素直に聞く奴等ではない。切磋琢磨といえば聞こえは良いが、彼らの競争心は、そんなものじゃない。殆ど憎悪し合ってるといってもいいくらいだ。足の引っ張り合いはするし、相手に都合のいいネタを拾っても絶対に教えない。そんな連中でも、定年直前のベテラン刑事に花を持たせるだけの「心」はあった。。。


「密室の抜け穴」
県北で白骨死体が発見され、3班が担当させられた。2ケ月の捜査で身元を明らかにし、村瀬班長の閃きでマル暴関係者を洗った結果、ある男が浮かび上がり逮捕することに決した。ただマル暴なので暴力団対策課の顔も立てろという刑事部長の命で暴対課の刑事3人を「参加」させることにした。前の晩から14人の刑事が張り込み、翌早朝踏み込んで逮捕する予定だ。マル対が帰宅した。ところが翌朝踏み込むと男が煙のように消えてしまったのだ。凄腕の刑事達が四方から見張っているーーーつまり密室から、どうやって抜け出せたのか?
またもや横山秀夫に翻弄されてしまった。

「ペルソナの微笑」
債権の取り立てを生業とする35才の男が、アオ(青酸カリ)で毒殺された。ビールに薬を入れたのは、8才の息子だった。
勿論分かってやった訳ではなく、近くの公園で見知らぬおじさんから、足の臭いや酒臭さをとる魔法の薬だといって渡され、そのまま実行したものだ。13年前の事件だった。
隣のV県で、アオによりホームレスが殺されたという情報が入り、F県警捜査一課朽木班の矢代は命ぜられて様子を聞きに行く。そして目撃者の話から作成された怪しい男の似顔絵を見て驚いた。13年前の見知らぬおじさんが老けた顔だったのだ。では同じ男が犯人なのか?ペルソナの微笑とは?
驚くべき結末がアナタを打倒する。

「モノクロームの反転」
これもTVの放映をチラッと観たことがあります。

一家3人が刺殺された事件。
被害者は弓岡雄三36才、妻洋子32才、長男悟5才。
3班(村瀬班長)が出されたが課長の田畑は敢えて1班(朽木班長)も投入した。尾関刑事部長は反対だが、いがみ合った両班(ヤンバン ではありません)を噛み合わせれば事件解決は早まると踏んだのだ。
競争で、それぞれ勝手に捜査したところ、洋子の同級生の二人に絞られてきた。久米島は中学の教諭、持田は鳶職。
一方、被害者宅の対面の家に写真専門学校に通う少年がいて、写真を水洗いするための水槽から排水するホースの穴が、壁に3cmほど明けられているのだが、そこからたまたま犯行時刻と思われる頃に、白い車が、この壁にくっつくように停められていたのを見たという証言があった。
持田の車は白のスカイライン、久米島のは黒のまん丸いマーチ。
横山秀夫に騙されないぞっ。
by amamori120 | 2005-09-21 01:18 | 横山秀夫を読む