横山秀夫を読む 7 「クライマーズ・ハイ」
2005年 09月 16日
クライマーズ・ハイというタイトル、そしてこの表紙。梓林太郎の向こうを張って、横山センセイも山岳ミステリーでも書いたのかと思いました。
山岳小説、登山小説、山 といえば、井上靖「氷壁」、北杜夫「白きたおやかな峰」、夢枕獏「神々の山嶺」、深田久弥「日本百名山」等を思い浮かべてしまいます。
本書は、谷川岳の衝立岩に登るため、主人公の悠木が土合駅に到着したところから始まります。やっぱり山の小説だなと思ったら、ところがこれは新聞記者小説?なのではないかと思う展開になって来ます。
主人公は群馬の地元紙「北関東新聞」社会部の遊軍記者です。横山さんが実際に12年間記者生活を送った「上毛新聞」もライヴァル紙として出て来ます。これまで発表された作品に警察小説が多いことから、彼が警察(サツ)回りが永かったことが容易に想像できますね。
ところで、本書の”山”は、昭和60年8月12日にJAL123便が群馬県の御巣鷹山に墜落した、あの事故です。もし、これが長野県側に落ちていたとしたら、この小説は書かれなかったかも知れない。地元紙とはそういうものらしい。全国紙とは違うんですね。
この事故の”全権デスク”を命じられた悠木は、記事の取り扱いをめぐり、社長以下の経営陣、他部局のトップ、ついには自分が属する編集局の上司とも対立しまくり、己の信じるやりかたに固執する。上からの圧力に抗しきれず屈服し部下からの信頼を失う場面も。毎日、社に泊まり込み、殆ど睡眠もとらずにデスクとしての仕事に打ち込む悠木。
もしこの事故が起きなかったら、悠木は同期の安西と谷川岳の衝立岩に一緒に登る約束で、待ち合わせの場所、時間まで決めてあった。ところが、安西も急病で倒れ、約束の場所へ行けてなかった。
そして17年後の今日、悠木は安西の遺児・燐太郎と衝立岩に登ろうとしている。
クライマーズ・ハイとは、興奮状態が極限にまで達して恐怖感が麻痺してしまう状態を言うそうですが、新聞記者としての悠木もコレになっていたみたいです。
JAL123便の事故については、山崎豊子「沈まぬ太陽」第3巻”御巣鷹山篇を、ご一読下さい。ハンカチでは足りなくてタオルが必要になります。


