横山秀夫を読む 3 「陰の季節」 「顔」
2005年 08月 29日第五回松本清張賞受賞作 四つの中篇所収
★陰の季節 或る団体に天下ったD県警本部・元刑事部長が約束の3
年を過ぎても辞めようとしない。困り果てた警務部長および警務課長は
警務課調査官・警視の二渡真治に役目を押しつける。 この名前を見
て やっと気が付きました。たしか、どこかのTV局で放映してました
ね。上川隆也(今、上村香子とキャベジンのC.Mやってます)が二渡
真治役で、高田純次が警務部長役でした。
で、この元刑事部長に接触するのですが、全くガキ扱いで相手にしても
らえない。人事異動発表の日は迫るし、「任務」は進まない。元部長を
追っかけ回すうち、彼の活動ぶりに違和感を持つようになった。産廃の
不法投棄の現場を専用車で視察しているというのだが、何かおかし
い。運転手に詰問しても、ビビルばかりで埒があかない。そうこうする
うち、この運転手が睡眠薬中毒で死んでしまう。と、不可解なことに、
元部長が辞めると言いだした。
真相は?
★地の声 なんでも「そうね、そうね」と言うQ署の生活安全課長の
曽根警部はD県警最古参の警部。17年も警視昇任という天の声か
ら見放されている。システムが変わり来年からは、筆記試験が導入
されるので今年が最後のチャンスだ。この曽根についてタレ込みが
監察課にある。とかく噂のあるスナックのママと曽根がデキテいる、
というもの。調べると、そんな形跡がないと判明したが、一体誰が曽根
を陥れようとしたのか?
暫くして、曽根が、かの店を管理売春で摘発、ママ以下を逮捕するとい
う手柄を立てる。果たして、曽根の、警視昇任を願う、地の声は天に届
くのか?
★黒い線 D県警機動鑑識班の平野瑞穂巡査が無断欠勤、失踪す
る。彼女は似顔絵が得意で、「お手柄婦警」と新聞で賞賛されまくっ
たばかりなのに・・・彼女が「顔」の主人公となる。
★鞄 長老県議が警察問題で爆弾発言をするという。警務部秘書課長
補佐の柘植警部は「議会対策」が仕事だ。本部長に恥をかかさない
ためには、質問内容を知る必要がある。柘植は必死に活動を始める
も、思うように進まない。県議がいつも持っている鞄に、質問関連の
書類が入っているらしい。その鞄の中身を盗み見するチャンスが訪れ
るが、それは柘植に対する罠だった。
この県議をTVでは、長門博之が好演してましたね。
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「顔」 2002.3 徳間書店・刊 ¥1,680 05.8.25 読了
「陰の季節」の★黒い線 に登場する平野瑞穂巡査が主人公です。
だから「顔」とは似顔絵の顔 なんですね。
★魔女狩り
★決別の春
★疑惑のデッサン
★共犯者
★心の銃口 以上五つの中篇が収められています。いずれも一話読み切りですが、連作でありまして瑞穂を取り巻く環境は、どんどん変わっていきます。
最初は、D県警本部鑑識課の機動鑑識班の一員だったが、★黒い線 での事件で、心のバランスを崩し、失踪、休職という破目に陥った。その事件とは;マル目(目撃者)の話を聞いて犯人の似顔絵を描いたのはいいが、逮捕された犯人とは少しも似ていなかった。それは証言者の思いこみで瑞穂の責任ではないのだが、「お手柄婦警 似顔絵で犯人逮捕」という形で発表しようとしている警察サイドには実に不都合だったので、犯人の写真通り描き直せ(一種の改竄)というものだった。
新聞には、警察の思惑通り発表された。メディアにもてはやされる瑞穂だったが、純粋な気持ちで警察官を務める彼女には到底耐え難い出来事だった。
半年の休職期間を経て復職した彼女は、意に染まない部署-広報室とか「なんでも相談テレホン」係の仕事をこなしながら、次々と起こる事件に関わっていき、似顔絵描きで培った、細かい観察眼を生かして、事件解決の糸口を見つけていく。
そして念願の鑑識課に戻ることが出来た。
「若鮎のような婦警 平野瑞穂」を暗示して物語は終わる。