笹倉 明 「悲郷」
2005年 08月 08日
1988年 「漂流裁判」で第6回サントリーミステリー大賞受賞。
1989年 「遠い国からの殺人者」で第101回直木賞を受賞しています。
初期の頃から割と彼の本を読んできました。my書棚にも10冊ばかり並んでいます。
本書は、1989 講談社・刊 ¥1、100 やはり、雨漏り書斎主人らしく、これも読み漏らしていて、05.8.8 読了です。

主人公のタケミは「旅の途中」にある。ケンブリッジ近くのファームキャンプ(農場共同体)で働くことにした。これは、イギリスに一時的に滞在する男女の旅行者に開放されていて、ここでは正式の労働許可証も不要で、仕事は、じゃがいも堀(ポテト・ピッキング)と林檎摘み(アップル・ピッキング)がメイン。「世界各地からの若者が、旅の途中で余暇を過ごし、旅費の一助とするには最適の職場であろう」と謳われているが、実際にはなかなかそういう訳にはいかない。見たところ、それらしき者は極めて少なく、幅広い年齢層にわたる労働者の寄り集まりだった。
何週間か、ここで働くうちに、アイルランドのトム、ウガンダのチャーリー、スコットランドのウィルソン氏と親しくなっていく。
労働はキツク、ペイは少ない。楽しみはキャンプ内のバーで飲むビール。私など、スウイーツのないところでは二日と保たないだろう。
元はドイツ人捕虜の収容所だったという宿舎は、木造で、左右二列にベッドがずらりと並んでいる。木の扉を開けると、異臭が鼻をつく。汗、ほこり、煙草のケムリ、人いきれ。一瞬、息苦しくなるほどムッとくる臭い。

このキャンプには女子も居て、共同の食堂や、バーやピンポン場で彼女達と接触することがある。
或る日、東洋系の女子と知り合う。お約束ですね。
彼女はメイリーという「中国人」で、つき合いが深まっていくが、「中国人」と「」で、くくったのは、人種的に中国人というだけで、インドネシアから来たという。所謂華僑というやつ。
つき合いが進んで、二人は愛し合うようになる。そして労働シーズンの終わりが近づき、二人は一緒にこのキャンプを去る。
「私、本当は、中国人だなんて思いたくないの」
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「私には、二度と見たくない国が一つだけあるの」
「それがインドネシア?」
「その音も聞きたくないくらいよ」
メイリーの声が不意に震えた。
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「どこか、反感も敵意も持たれることのない国へ、どんな差別も偏見もない土地へ私は行きたかった」
「悲郷」という、この小説の本当の主人公は、美麗(メイリー)だった。



