明日の記憶 荻原 浩

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2004.10 光文社・刊 ¥1,575  06.5.14 了

他人事(ひとごと)ではない・・・そう感じながら読み続けました。




若年性アルツハイマーを扱った問題作です。
本の帯にもあるように、昨日、5月13日、映画が公開されたようですね。
ブロ友の皆さんも多くの方が観に行かれることと思います。

また、第18回山本周五郎賞受賞、本屋大賞第2位だそうです。

50才になったばかりの佐伯は広告代理店の営業部長。
その彼が若年性アルツハイマー症に罹ってしまう。
ジワジワと、しかし確実に病状は進み、人間としての佐伯が壊れていく様が、日常生活の中の多くのエピソードで語られる。
身につまされて何度途中で放り出そうと思ったことか。
しかし、救いは、この著者特有のユーモアを忘れない文体だ。
私は、元来こういう「可哀相な」物語はあまり読まないのですが、ところどころに出て来る「軽妙洒脱な」文章のおかげで、挫折することなく、読了できた次第です。

誰の目にも「おかしい・・・」と判るくらいに病状が進行して、遂に娘の結婚式を終えてから、永年勤めた会社を退職し療養に専念することになるわけですが、趣味でやっていた陶芸が、或る意味、彼を救います。

二十数年前、彼が大学生の頃に世話になった、三多摩の方の偏屈な老陶芸家を訪ねた際の描写です。
「前腕が萎え、背骨が軋みをあげるまで土練りを続ける。ひたいから汗が噴き出してきた。気持ちいい汗だった。自分の頭の中から、汗と一緒に悪しきものが溶け出して流れていくようだった。嫉妬、妄想も、怒りの衝動も、生き続けることへの恐怖も、私の頬を伝い、顎から垂れて、土と混ざり合った。」

「不思議なことに、いまは記憶を失う恐怖心は薄かった。記憶が消えても、私が過ごしてきた日々が消えるわけじゃない。私が失った記憶は、私と同じ日々を過ごしてきた人たちの中に残っている。」

「自分の病気も、もう恐れはしなかった。私自身が私を忘れても、まだ生命が残っている。そのことを初めて嬉しいことだと思った。」


絶望的な日々を送って来たが、なんとか希望を持って生きて行かれる未来を予感させて物語は終わります。

尚、本書は畏友jsbyさんに、ご心配頂きました。この場を借りて御礼を申します。
本書といい、以前UPした「脳内汚染」といい、jsbyさんのお勧めがなかったら、まず手にとらない分野の本です。ブログをやっててよかったと思う所以です。


<追記>皆さんの関心の高さを慮られて、jsbyさんが、こんなサイトをご紹介下さいました。
是非、ご参考になさって下さい。

ページ名: アルツハイマー病

URL: http://www.naoru.com/arutuhaima-.htm

by amamori120 | 2006-05-14 17:54 | 読後感・本の紹介