横山秀夫を読む 8 「看守眼」 

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04.1 新潮社・刊  ¥1,785   05.9.16 読了

表題作「看守眼」の他に5篇が収められています。
「自伝」
「口癖」
「午前五時の侵入者」
「静かな家」
「秘書課の男」     仕掛け人・横山秀夫の技を楽しんで下さい。

★看守眼  38年間の警察官生活のうち29年間を留置場の看守として過ごした男の物語。彼は若い頃から刑事志望だったが、ついにその夢は叶えられることはなかった。
看守眼とは聞き慣れない言葉だが、刑事眼に対応するものだという。
看守というのは、留置人の監視と世話が職務だが、朝から晩まで多種多様な犯罪者と向き合っていれば、嫌でも刑事眼が養われるそうで、大抵どこの所轄でも刑事として見込みのありそうな若手に1~2年看守の仕事を経験させるという。

定年直前の休暇を利用して、彼は1年前の死体なき殺人事件を追っている。一人の主婦が失踪したが、不倫相手に殺されたと思われる状況で、相手の男を追究したけれども、自白も得られず、物証もなく釈放せざるを得なかった。真相は藪の中だ。
別件で逮捕された男を留置場で面倒をみたのが彼だった。
20数年の看守としての経験から、人を殺して間がない人間はギラギラしているが、日を追うごとに段々と脂が抜けていくということを知っていた。その男は逆だった。留置場に入って来た時は、まっさらだったが、日に日にギラギラして来た。男は入った時点では誰も殺していなかった。だが留置場を出てから殺す予定があったのだ。

百人からの刑事が調べ回って、ついに解決出来なかった事件を彼は明らかに出来るのだろうか?
失踪した主婦は殺されていなかったのか?




★口癖  どんな辛いときも「これしきのこと!」と頑張って来て、家裁の調停委員にまでなった中年女性。彼女の口癖が、嫁いだ娘に移っていて、それが新たに離婚調停を申し出て来た女との間に、とんでもない波紋を拡げることになってしまった。

★自伝 三人のライター・グループに、大手電機量販店創業者の自伝を書く仕事が回って来た。所謂ゴーストライターだ。面接があって他の二人は落とされ、主人公が合格した。何故、彼なのか?
準備を進めるうち、依頼者と主人公には、或る関係があることが判って来た。その関係とは?そして、この仕事は完成するのか?

★午前五時の侵入者  県警のホームページにクラッカーが侵入した。フランス語の詩のようなものに取って代わられていたのだ。
迅速に対応したので、早朝ということもありアクセスは4人で止まった。
しかし、これが公になれば責任者の主人公は職を失うかもしれない。
信頼できる部下と共に、この4人を探し出し口止めして回った。
それぞれの応諾を得てホッとしたのも束の間、本庁(警察庁)に報告する、しないで、警務部長、警務課長、本庁より出向の調査官、それぞれの思惑が重なり、責任をとらされそうになる。
誰が何の目的で、何の為にこのようなことをしたのか?
何故、フランス語なのか?

★静かな家  或る地方紙の整理部係長が主人公。営業部門のゴリ押しで、折角完成した紙面割りを、すっかり作り替えなければならなくなった主人公は、ドタバタの中で、本日終了したある小さな催しが明日まであると勘違い平行棒し、掲載してしまったことから、殺人事件の容疑者にされる顛末。

★秘書室の男  県知事公室秘書課長の五十男。公私ともに知事に尽くし、覚えもめでたい。
ところが、ある日を境に知事の態度が冷淡になった。
知事宛の投書は彼が選別するのだが、彼の不在時に、誰かが彼の悪口を書いた投書を知事に回したらしい。最近、知事の寵児となりつつあるボストン大卒の部下が彼を追い落とそうとしてやったのか?
by amamori120 | 2005-09-18 18:42 | 横山秀夫を読む